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【第二回】螺鈿職人 のむら まりさん【La Vitaプロジェクト】


 9月7日、私たちはラビータプロジェクト2回目のインタビューのため、京都は嵯峨野にあるとあるカフェにてインタビューを行いました。

今回のインタビュイーはのむらまりさん。

商社や商品開発の仕事などを経験した後家業に戻り、現在は螺鈿商品の制作をされています。

彼女は、第1回目にインタビューさせていただいた田村篤史さんの奥さんでもあります。お子さんを連れてのインタビューだったのですが、ときどき泣き出す彼をあやすのむらさんの様子は大変ほほえましく、こちらも和まされました。

家業には驚くほど無関心だった
 多くの場合、伝統工芸の業は一子相伝であったり後継者を募集したりすることで、未来へと継承されていくものだと思います。しかし、まりさんの父はほとんど仕事について語らず、工房も自分の代で終わらせるつもりだったそうです。そのため、まりさんは家業に興味を持つこともなく大学へ進学し、商社へと就職をしました。
 
きっかけは転職したこと
 その後、幾度かの転職を経て、伝統職人を商品開発面から支援する職につきました。実際に伝統職人を援助することは、家業に関心を持つきっかけになりました。改めて見る父の作品は以前と違って見えたといいます。
「お父さんの作ったお茶道具が綺麗やったんです。知ってもらったら百人中百人は欲しいと言わなくても十人は言うんじゃないかなぁと思って。私はそのくらい確率が高いと思った。たった10%でなく10%もいるだろうなと思ったんよね。」
 それから一年ほど商品開発職を続けた後、家業を継ぐことを決めました。今までの経験を活かし「いろいろと出来ることが多いはず」と自信を持ちワクワクしていたそうです。
 
“螺鈿職人”   のむら   まり
 父の作品にはお茶道具だけでなく、螺鈿のアクセサリーもありました。
「螺鈿のアクセサリーはサイズが大きいものが多く、若い人が普段の生活で身につけるには仰々しい。」
 そう感じたまりさんは小さく、仕事中でも邪魔にならないアクセサリーを作る事にしました。とはいえ職人としての技術は未熟。全ての工程を一人で作ることは出来ませんでした。そのため、 父から技術を学びつつ回数を重ねることで、こなせる工程を増やしていきました。こうして完成したいくつかの作品は良く売れるようになり、特に「京ものユースコンペティション」にて準グランプリを受賞した「薔薇ジュエリー」はダントツで売り上げが多くなりました。
  “父の作品の美しさをそのままに、より多くの人に手に取ってもらえるように形を変えて受け継ぐ”
 まりさんはそんな素晴らしい継承をされたのだと思います。そしてそれは、転職を経験し、伝統という枠組みに囚われない感性を持ち得たまりさんだからこそできた事なのでしょう。
まりさんのこれから
 まりさんは今、色の勉強をしています。パーソナルカラーを学ぶことで、お客様一人ひとりに似合う色のアクセサリーを提案し、喜んでいただきたいそうです。現在は父が扱っているオーダーメイド販売にも意欲的です。近い将来、まりさんの手で世界に一つの、あなただけのアクセサリーが作られる日が来ることでしょう。
 経営方針としては「四方良し」を目指しています。四方良しとは、ここでは売り手よし、買い手よし、世間良しの「三方良し」にさらに一つ「作り手良し」を加えたものです。若手職人が作った作品を買うことで、その職人の技術が上がる、そういう付加価値のあるものの作り方がしたい。そうして背景やストーリーが充実した作品作りをすること。それがまりさんの掲げる目標です。 
編集後記
 インタビュー中、職人としてのまりさんと母親としてのまりさんが垣間見えることがあった。質問に答えている時は職人らしい真剣な面持ちになるのだが、インタビューの合間に「ちょっと待ってね」と子どもをあやす時は母親らしい柔らかな表情になる。その度に我々取材班も無意識のうちに肩の力が抜け、小休憩を取れていた。記事に選ぶ写真を選びながらそんなことを思い出した。「心が穏やかになるものを作ります」母親と職人の二面を持つまりさん。そんな彼女にしか作れない作品があるような気がした。