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家なしショーン

大家「ユニットバスの工事をするので三日間部屋を空けてください。」

 

被害者の僕「ハイ!?三日間も!?しかも平日に!?大学生ぞ!?」

 

始まりは、私の住むマンションの大家から送られてきた一通のメールでした。

ユニットバスを丸々新しくするため、3日間部屋を空けてほしいと、その間は部屋に入ることもできないという。

バイトのシフト調整も間に合わず、京都を離れるわけにもいかない。友達に泊めてもら...いや待てよ、これはチャンスか...

 

「今こそブッキングをするのです」

類稀なるネゴシエーション能力を発揮し、大家から「ホテル代負担」を勝ち取った私は、意気揚々とホテル選びを始めた。バイト先が近くにあって、アクセス抜群、評価も高い綺麗なホテルにしよう。ここいいっすね...ポチっと。こうなったら豪遊しよう。今回だけは終電とか気にしなくていいのだ。京都市に至ってはバスも地下鉄も24時を超えると完全停止する。遊べないのだ普段は。大阪と違ってしけた町だ。しかし今回は違う。バスも電車もいらない。遊び場と帰る場所が直結なのだ。徒歩3分なのだ。酔っ払って車道に猪突猛進して事故でもしない限り、高確率で無事に帰れるのだ。ずっと夢だった「一人で朝まではしご酒」をするとき、それは今なのだ。

 

 

 

 

 

 


〜1日目〜

 

大家の絶望の宣告から2週間。ついにこの日がやってきた。

朝7時に起き、最後のシャワーを浴びた。

大規模な工事に備え、部屋の中を片付ける。

シャワーカーテンを外し、カーペットをたたみ、

ベッドを壁に立てかけ、割れ物は低い場所へ移した。

朝の9時半に工事業者が到着し、私はマンションを発った。

気持ちはすでに昂っていた。心が滾る。 

 

 

16時頃、ホテルへチェックイン。

「一言で言ってパネェ」

ちゃんとしたホテルはすげぇんだ。ホテルには、フロントで渡されたスマホをかざすと入れる。そのスマホにはホテルのガイドが全て入ってる。そのため何度でも、何時にでもホテルに出入りできる。アメニティーも使い放題。時間制限はあるもののビールが飲み放題で、半端なくオシャレで意識超高ぇワークスペースも併設されていた。朝食も半端なくオサレ。宿泊客の9割は外国人観光客のようで、スタッフも外国人だった。三年前に大学受験で泊まったホテルも良かったが、ここは間違いなくそこ以上だ。パネェ。しかも安い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Oh...My Kingdom...

 

22時頃、バイトから帰還。

バイトでミスして凹みまくってたが、ホテルのシャワールームで全てが吹き飛ぶ。

 

 

 

なんだァこのアメリケンなシャワーヘッドはよォ!?未確認飛行物体かなァァァ!?

 

私のような無知なる田舎者は、何事にも子どものように無邪気に驚き、ハシャげるので幸福である。ボディソープはアーモンドの香りだった。テンション上がって一人Bohemian Rhapsodyしてました。

俺「エーオ」

俺「エーオ」

 

俺「エーーーエオ?」

俺「エーーーエオ!」

 

俺「オゥライ!!」

リーロリオリロリロリ(この時2019年2月)


 

 

 

「湯船もある...だと...?」

 

シャワールームは個室が5部屋ある。男女共有。なのでカップルで入ってる輩もいた。ここはそういうホテルでは無い。帰れ帰れ。

一番奥の部屋にのみ湯船が設置されており運が良ければ使える。めちゃでかい。

ちなみにトイレはなんの変哲も無い一般様式トイレでクソ残念だった。トイレなだけに。



 

 

〜1日目の夜がやってきました〜

 

10時半、さぁ早速1軒目のバー行くとしよう。

前から入りたいと思っていた店へ単身で乗り込む。

一人でカクテル飲みにバーに入るのは初めてである。心臓がバクバクでした。

 

 

「えっ?客俺だけ?」

 

勢いそのままに一番端のカウンターに座って、思わせぶりな溜息をついたけども、えっ、これアカンやろこの空気感はあかん。帰りたいわ。他の客早くきてよ。

 

「なんでも作れる感じですかね?」

「なんでも大丈夫っすよ」

「じゃ、エルディアブロで」

「はいよ」

 

いいお兄さんだった。

この店での学びは大きかった。とても大きかった。

 

・メニューのないバーでは名前よりイメージで注文したほうがいい

カクテルってのは有名なやつには固有名詞がついている。だいたいどこで頼んでも出してもらえる世界共通のカクテルだ。カシスオレンジとかミモザとかキールとか。しかしその数は無数にある上、店のオーナーによって作れる/作れないなどもあり、必ずしも期待通りものが出てくるとは限らない。そのためマスターと相談しながら注文したほうが好みのお酒を出してもらいやすかったりする。「エルディアブロで」ではなく「フルーティな飲みやすいのお願いします」とかの方が作りやすいそうだ。互いに得をする頼み方でカクテルを楽しもう。

 

 

・「ロングアイランド・アイスティー」

略してロンティーと呼ばれるこのカクテルはいろんな酒やコーラ、シロップを混ぜるとなぜかストレートティーの味になるという不思議なもので、飲みやすくてアルコール度数も高いため気づいたら酔ってるという代物。このカクテルの真の価値は「その店のレベルを知れること」にある。作り方はお店によって違う、めんどくさい、記憶力と腕が試されるためである。頼むとメンドくさがられることも...でも美味い

 

・ピークは午前2時

私が入った10時半という時間帯はあまりに健康的すぎた。誰もこねぇよバカ。

 

ってことで出直すことにした。お兄さんにオススメのバーを聞いて明日そこへ行こう。

ここでは「エルディアブロ」「ガルフストリーム」「ロンティー」を注文。わずか15分でホテルへ帰還。

 

 

〜お気に入りカクテル紹介〜

 

エルディアブロ...悪魔の血の色 

テキーラ+クレームドカシス+レモンジュース+ジンジャーエール

 

ガルフストリーム...目にも美しい南国気分カクテル 

ウォッカ+ピーチリキュール+ブルーキュラソー+グレフルジュース+パインジュース(写真に写ってる浅葱色のカクテルがこれ)

 

ロンティー...まじでストレートティーの味 

ドライジン+ウォッカ+ホワイトラム+テキーラ+ホワイトキュラソー+レモンジュース+シュガーシロップ+コーラ+レモンスライス

 


 

 

〜2日目の夜がやってきました〜

 

国立博物館行ったり三十三間堂見たり、映画二本見たり、ラーメン屋でチャーハン定食食べたり豪遊し尽くした。普段は守銭奴すぎてラーメン単品でしか頼まないような男がこの豪遊っぷりである。貧乏大学生万歳。そんなこんなで時刻は午前2時半です。昨日の反省を総動員し、今日こそは!とグーグルで見つけた評価の高い、いい感じのバーへ向かう。あちこちから叫び声がするカオスな午前2時の木屋町を抜けて。

 

 

「おいおいおいオサレ空間だな?」

なんともオシャレで、通りに面した場所にあるこのバーはカジュアルでお一人様の若者でも入りやすい。何より「カルヴァドス」を扱う希少なお店。しかし、もう少しで閉店ってことで二杯ささっと飲んで退散することに。「ロンティー」と、お任せで出てきた「ジャックローズ」

 

「お会計3410円になります」

「(するねぇ...安くないねぇ)」

 

突き出しのナッツとドライフルーツ、カクテル二杯でこの値段。ちなみに昨日のお店は突き出しなしの三杯飲んで2200円でした。


〜お気に入りカクテル紹介2〜

 

ジャックローズ...華やかなバラ色カクテル

アップルブランデー+ライムジュース+グレナデンシロップ

 

 

次の店は直感で決めることにした。適当に歩き回る。

さっきのお店のマスターにいい店の探し方を聞いたところ「細い路地にある入りにくい感じのお店」と言われたので、そんな感じで。

 

日中はキャッチが禁止されているため安心安全なのだが、午後2時を過ぎるとキャッチが現れだす。しつこくはない、が多い。警察の派出所もすぐそばにあるが、御構い無しの様子。「しつこくなければ夜はオッケー」ってのが暗黙の了解なのかもしれない。毅然とした態度で振り切り、歩き回る。大阪中央区あたりのキャッチと比べれば可愛いものである。大阪のキャッチは須く消え去れ...

 

 

 

 

歩きに歩いた挙句、結局2軒目は昨日のお兄さんにオススメされたお店へ。ここは個人的に超当たりだった。安い。何よりマスターが超面白い。めちゃいい人。お客さんは5人全員が大学生でクソほど楽しかった。

「〇〇のお店の兄ちゃんに紹介されてきました」

「え!まじ?激アツやん!一杯目どうする?」

「じゃあロンティーお願いします!」

「うわめっちゃめんどくさい奴を紹介しよったなあいつ!」

 

ここではオリジナルカクテルばかり飲んだ。なんか適当に作って適当に名前をつけるという素晴らしい仕事をするのだここのマスターは。

なんかめっちゃ甘い、飲んだ瞬間歯が溶けるような「バファリン」とグレフルとピーチとテキーラを合わせた「ハワイもどき」、それからその場のノリで全員でテキーラのショットをイッキした。会計は1000円。安すぎでは?絶対また行くわこの店。



〜三日目の朝は、せつない〜

 

ホテルに戻ったのは朝の5時。

チェックアウトは10時。それを超えると1000円がチャージされる。起きれるかどうかは完全に運だったが、私は根っからの守銭奴のようで9時45分に目が覚め、54分にチェックアウトを済ませることができた。なんだかんだで3軒しか回れなかったなぁ。でも本当に楽しかった。ホテル暮らしかネカフェ暮らしでもしないとバー巡りなんてできないよ京都では。ホテル暮らし...クセになりそうな背徳感でありました。また工事してくんねぇかなうちの大家さん。