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【第七回】藤木 和子さん【La Vitaプロジェクト】


上賀茂神社の周りには、古くから神職関係者のお宅が密集していたという。そこには現在も昔ながらの伝統的なお宅が立ち並ぶ。いわゆる「社家町」だ。今回我々がインタビューした方のお宅もそこにあった。大きな木製の門をくぐり抜け、インターホンを押す。すると、彼女の優しく少し高い声が聞こえてきた。



藤木 和子さん

1939年生まれ。和服の仕立てを生業とするかたわら、京都産業大学生の下宿の大家さんとして日々学生らを支えている。



藤木和子さん。生まれも育ちも上賀茂神社の社家町だ。彼女がそこに住むのは、ご先祖が上賀茂神社の関係者だったからなのだそう。が、藤木さん自身は神社とはあまり関係のない「とある仕事」をしている。


彼女が小学校に入る前のこと。当時日本は戦争中だった。上賀茂神社周辺では食べ物がなくて困ってはいたものの、爆撃はなかったそう。しかし藤木さんは、食べ物を得るために向かった先で爆撃を体験する。名古屋駅が炎で真っ赤になっていた様子を、今でもはっきりと覚えているという。

「そのときは自分が大変というより、親の方が大変そうだった。自分は、なんか知らんけど引っ張り回されているって感じやったね」


ちょうどその頃から、彼女は裁縫に興味を持ち始める。お母さんが針仕事をしているのを見て、針の魔法のとりこになったそうだ。魔法はその後も解けなかった。そのため、和裁や洋裁を学べる高校(現在の京都橘高等学校)を選ぶ。 18 歳からは専門学校に入り3年ほど裁縫を教わった。それから2年ほど洋裁屋に中習いとして勤めたのちに、結婚。ちなみにそのお相手は、藤木さんと同じ裁縫の仕事(悉皆屋)をされている方だった。彼の専門が和裁だったため、藤木さんも以降は和裁のみを取り扱うようになる。


結婚式の和装、成人式用の本振袖と中振袖に小袖、そして卒業式の袴……。一口に和裁といっても、彼女らが作る着物はさまざまだ。作業は基本すべて手作業で行う。染めるところまでを旦那さんが、それ以降を藤木さんが担当する。「4度目の成人式」を迎えられた現在も、その分担は変わらない。

藤木さんの紡ぐ言葉からは、彼女の深い着物愛が伝わってきた。しかし藤木さんは、今までの人生で一番大変だったことが仕事だとおっしゃっていた。いくら好きだといっても、それを仕事にすると辛いと感じてしまうこともあるのだろう。
「真剣にやるとそれだけ大変。でもそういう苦労も人生において大切だと思う。苦労の木に実がなると思うから。」

 

取材・文=りな、トレジャー、繁々

 


【おまけ】取材ウラ話

 

りな
藤木さんが、京都産業⼤学ができたときから、⼤学生に宿泊のできる環境を提供していたことに驚きました。話を聞いていくなかでは、着物への愛着がすごく伝わってきました。何かを好きなことを仕事にするのは⼤変。だけど、それだけ⼤切なものだからこそ、がんばれるのだろうなと感じます。
彼女は仕事が一番⼤変だ、とおっしゃっていましたが、仕事について語る様子は楽しそうでした。仕事で、あんなにもたくさんの知識を持てるのなら、とても自信になりそうです。仕事は本気で頑張れば、それほど⼤変だと思います。藤木さんも本気でやっていたからこその、苦労があったでしょう。それでも、あんな風に、今もなお仕事を続けられているなんて、かっこいいな~、って思いました。


トレジャー
私は、木原ゼミに入ってから初めてのインタビューで、少し緊張していました。けれど、藤木さんはとても優しく、笑顔の多い方で安心しました。話すことがお好きな方だったので、貴重なお話をたくさん聞かせていただきました。私の実家は綾部市にあるのですが、藤木さんの旦那さんも綾部市出身だったので、親近感が湧きました。私は、綾部市に数年住んでいたにも関わらず、綾部市には住んでおられない藤木さんの方が綾部市について詳しく知っておられました。知識の豊富な方だと思います。

また、藤木さんはフラダンス、お茶、お花……と、多趣味な方でした。趣味のことについて楽しそうにお話されている姿を見て、本当にそのことをするのが好きだと伝わってきました。それでもなお、彼女は、他にもいろいろなことに興味があるとおっしゃられていました。驚きです。私も、もっといろいろなことに興味を持って生活していきたいと思います。

 

繁々

藤木さんにインタビューすることを提案したのは私でした。彼女のお家の下宿生の一人です。藤木さんとはよく世間話をしていて、でも彼女のお仕事とかどのような生き方をされてきたかとかはわからなくて。それでインタビューしたいと思ったのです。

正直、インタビュー前は緊張していました。こうしてかっちりとした形で彼女とお話することはなかったので。けれど、事前の打ち合わせで、彼女はあんまり堅苦しいインタビューをしないでとおっしゃられて(笑)、それで結構落ち着いてインタビューできました。

インタビューを通し、藤木さんはやはり賢い方だなと思いました。私のあやふやな質問にも適切に答えてくださいましたし、何よりいろいろなことをしっておられる。それは、藤木さんが様々なことに興味関心を持ってこられたからではないかな、と思います。インタビューも好奇心旺盛でした。なぜか我々が藤木さんにインタビューされる場面も多々ありましたから(笑)。
私は、自分がしたいことがあっても、すぐに実行できないことが多いです。他のことを優先して、後回しにして。結局できないこともしばしば。もっと、気楽に、いろいろなことに挑戦した方がいいのかな、なんて感じました。